台湾人事労務
雇用時の留意点
台湾での人事労務は、日本と比べて 「手続」「記録」「証拠」 が極めて重視される点に特徴があります。
以下では、台湾で人を雇用する際の基礎知識と、実際の日系企業で発生したケースを匿名でまとめ、読者に分かりやすく解説します。
1. 台湾で従業員を雇用する際の基本ポイント
台湾では、後のトラブルを防ぐため、以下のポイントを明確にしておくことが重要です。
(1) 職務内容(JD)の明確化
日本と異なり、台湾では 職務内容が曖昧なまま採用すると、評価や解雇が極めて困難 になります。
採用時に、以下を具体的に記載する必要があります。
- 担当業務
- 期待される成果
- 評価基準
- 試用期間中の判断基準
「業務および付随業務」など抽象的な記載はNG です。
(2) 評価は“記録”を残すことが必須
台湾では、評価制度は「後の証拠資料」として扱われます。
- 試用期間評価
- 半期・年次評価
- 上司のフィードバック
- 再工(やり直し)記録
- メール・会議記録
- 1on1メモ
これらが 解雇理由の裏付けや調解での証拠 となり、記録の有無で企業側の立場が大きく変わります。
(3) PIP(業務改善計画)の実施
能力不足に関する解雇(不適任)では、台湾では 1〜2か月のPIPを行わない解雇はほぼ認められません。
PIPでは以下を明確にします。
- 具体的な改善点
- 目標値
- フォローの頻度
- 達成状況の記録
- 未達成時の対応
PIPは「改善機会の付与」として法的に必須の運用です。
2. 雇用から解雇までのフローチャート
【STEP 1】職務内容(JD)の作成
↓
【STEP 2】雇用契約書の締結
↓
【STEP 3】定期的な評価と記録
↓
【STEP 4】問題発生時 → 注意喚起(書面)
↓
【STEP 5】改善が見られない場合 → PIP開始
↓
【STEP 6】PIPで改善しない → 解雇理由の成立判断
↓
【STEP 7】法定手続(通知・予告・退職金)
↓
【STEP 8】従業員が不服 → 労働局調解へ
台湾は 証拠主義・手続主義 で運用されるため、たとえ正当な理由があっても、記録がなければ企業側が不利になります。
3. 合意に至らなかった場合の「調解」
従業員が解雇を受け入れない場合、まず労働局による 調解(調停) に進みます。
調解で提出が求められる主な資料
- JD(職務記述書)
- 試用期間・年度評価
- 上司のフィードバック
- 注意喚起の記録
- PIP記録
- 解雇通知書
- 署名拒否証明書
- 面談当日の録音・録画
資料が揃っていない場合、企業側が不利となり、追加補償を求められることが一般的です。