台湾人事労務
合意退職と解雇(資遣)
台湾では、従業員の退職手続が 日本よりも厳格 であり、特に「合意退職」と「解雇(資遣)」は別物として扱われます。
1. 合意退職とは?
従業員からの自己都合退職以外に、会社がその他の事由により雇用契約の終了を希望する場合には、会社と従業員が協議のうえ、双方が同意して退職とする方法があります。
- 会社と従業員が 話し合って合意して退職
- 法定解雇事由が不要
- 協議書を作成すればよく、手続が簡便
- 調解(労働局で調解委員会同席の話し合い)になるリスクが低い
- 退職日・補償金を柔軟に設定できる
- 多くの場合、1〜2ヶ月分の補償金を支払って合意する
- 台湾で最もトラブルの少ない方法です。
2. 解雇(資遣)とは?
一方、合意に基づかない「解雇(資遣)」を行う場合、労基法(労働基準法)第11条・第12条に該当する明確な①法定事由、②これを裏付ける証拠・記録、③所定の手続きが必要になります。
①法定事由(労基法11条、12条)
- 事業の休業または譲渡を行う場合
- 損失の発生または業務の縮小が生じた場合
- 不可抗力により1か月以上業務が停止した場合
- 業務の性質変更に伴い労働者の削減が必要であり、かつ適切な配置転換先がない場合
- 労働者が担当している業務を明らかに遂行できない場合
- 重大な就業規則違反または懲戒解雇
法定事由以外の理由による解雇はすべて無効となります。
②「証拠・記録」が必須
台湾では証拠主義が採用されており、労働争議の判断は「書面証拠」に強く依拠します。解雇理由が正当かどうかは、提出された文書を基準として判断されます。
必要とされる主な資料:
- JD(職務記述書)
- 評価表、1on1・会議記録、注意喚起のメール(人事考課の記録)
- PIP(業務改善計画)
- 組織再編の稟議書(業務縮小の場合)
日本以上に「証拠主義」が徹底しているため、管理職や人事が日々の記録を残すことが重要です。
③法定手続も厳格
「解雇(=非合意退職)」の場合、以下の手続がすべて必要です。
- 解雇予告(10〜30日)または予告手当
- 資遣費(退職金)の支払い
- 未消化有給の買取り
- 労働局・労保局への資遣通報(解雇届出)
- 確定日の明示
- 口頭・書面通知「解雇通知」
- 従業員が署名拒否時の「拒否証明書」作成
- 内容証明郵便による再通知(推奨)
手続の不備があるだけで、解雇理由が妥当でも違法解雇となる可能性があります。
「解雇通知」と「拒否証明書」について
台湾労基法では、解雇通知は「労働者の署名」によって効力が発生するわけではありません。
重要なのは、
- 通知を行った事実
- 通知内容が到達したことを証明できるか
であり、署名が無い場合に証拠として最も有効なのが「拒否証明書」+「録音」+「内容証明郵便」という3点セットです。
拒否証明書とは、従業員が解雇通知書への署名を拒否したときに、会社が通知した事実を証拠として残すための文書で、台湾の労務では必須の運用であり、調解・裁判で会社を守る重要な資料になります。
3. 違いの比較(一覧)
|
項目 |
合意退職 |
解雇(資遣) |
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原則 |
双方合意 |
会社の一方的解約 |
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法定理由 |
不要 |
必要(法律で限定) |
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証拠資料 |
不要〜少量で可 |
必須・詳細 |
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手続 |
協議書のみで可 |
法定手続が多数 |
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退職理由 |
任意退職扱い |
解雇(資遣)と記録 |
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補償金 |
交渉(1〜2ヶ月が多い) |
法定資遣費 |
|
調解リスク |
低い |
高い |
|
会社の負担 |
調整可能 |
大きい場合あり |
4. 合意に至らなかった場合の「調解」
従業員が解雇を受け入れない場合、まず労働局による 調解(調停) に進みます。
調解で提出が求められる主な資料
- JD(職務記述書)
- 試用期間・年度評価
- 上司のフィードバック
- 注意喚起の記録
- PIP記録
- 解雇通知書
- 署名拒否証明書
- 面談当日の録音・録画
資料が揃っていない場合、企業側が不利となり、追加補償を求められることが一般的です。
調解での着地イメージ
台湾の実務では、調解での和解金として
- 1〜2か月分の給与
- 未消化有給の買上げ
- 退職金(資遣費)
を支払って合意に至るケースが最も多いです。
5. 企業が負担し得る最大費用
台湾の労務紛争は、企業側負担が大きくなりやすい傾向があります。
- 最低限のケース(合意退職):月給1〜2か月分程度
- 調解(仲裁)に進んだ場合:月給2〜4か月分程度
- 違法解雇と認定された場合:解雇日から調解日までの追溯工資(バックペイ)、資遣費(退職金)、未消化の特休の買い取り
- 訴訟に発展した場合(稀だが最もリスクが高い):復職命令が出る可能性または6〜12か月分の給与に相当する和解金を支払う可能性